Destruction Wars
DESTRUCTION:0〜FROZEN SPRING〜





+T+






桜の咲く季節、それでも風はまだ冷たい。
そんな日に、僕らの旅は始まった…。
…いや。本当はもっと前から始まっていたのかも知れない。
……そう、あの日から。

すっかり金のメッキの剥げたドアノブを、かなめは回した。



背後に広がる室内の光景は、長期間家を空けることを示すように、家具の全てに白い埃避けの布がかけられていた。
更に、窓にはカーテンと外から木を打ちつけているためか、室内はとても暗かった。
これからこの、街から離れた場所にあるこの家は空家となるのだ。きっと、長い間。この木々の中で。
室内を見ないように、紀は後ろ手にドアを閉める。


桜の咲く季節であるのに、外の風は、まだ冷たい。
左手に握り締めていた小さな鍵を、鍵穴に入れて回す。
がしゃん。と錠の落ちる音が、脳裏で反芻された。もう、後戻りはできない。



次にこの錠の音を聞くのは何時になるのだろう。



そのときには、隣には妹が。ゆかが居るのだ。そうでなければ、此処には帰れない
そう、決意したからここを出て縁を探しに行くのだ。

そしてそれは、決してあてのない旅ではない。
それでも、目標にたどり着くまでは果てしない挫折と苦労が待ち構えているのだ。



引き抜いた鍵を掌に乗せて、それを見つめた。ぐっ、と鍵を握る。それを額に当てて、強く、一度眼を閉じた。





取り戻すのだ。幸せを。奪われた、幸せを。





「紀?」
紀の肩のあたりを飛んでいた水の精霊、あやが心配そうに声をかけた。

「どうしたの?」

「何でもないよ…少し感傷に浸ってた。ってやつ」
いいながら、青い小さな巾着に鍵を入れて、首から下げて服の中に隠す。



「さぁ。いこうか?」
ぱっ。と紀は笑った。



そうして、木漏れ日の道を歩く。
紀のプラチナシルバーの髪を太陽が照らした。


たとえこの道の先が、光のとどかないところに続いていても。この歩みを止めるわけには、いかない。
決意したのだから……。



桜の咲く季節。風はまだ冷たい。桜は、まだ咲かない。
それは、凍える春の出来事。
大きな大陸の、ほんの小さな出来事。
それでも、それは何時しか………。









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