今日は、とても天気が良い日です。 今日はこの町に滞在するだけなので、個人行動が出来る日です。 良かった。天気が良くて。 紀は町を見に行くみたいで、朝一番に宿を出て行きました。 二番目に宿を出るのは私みたいです。 本当は、琴夜と一緒に居たいのだけど『それ』を持続させるためには今日は別行動をしなければなりません。 ここにそれが出来る施設があってよかった。 「それじゃあいってきます」 ドアノブに手をかけて、窓際のイスで本を読む琴夜に声をかける。 こうやって、二人一緒の部屋割りは滅多に無いから、私は、すごくうれしい。 それと、ドアが閉まる直前に聞いた声が、もっとうれしい。 『いってらっしゃい』 だって!柄じゃないのに。そんな言葉をかけてくれた。 うれしい。 自然に笑みが浮かぶ。 帰ってきたら、『おかえり』っていってくれるかなぁ。 |
私は、有機アンドロイドです。身体を構成する部品がほぼ有機物質で出来ていて、感情プログラムもより人間に近くプログラミングされています。 私は、限りなく人間に近づいたアンドロイドなのです。 とても、珍しく高性能みたいです。 私は、本来高性能コンピュータの制御システムでした。 あくまでシステム。正式名称は『MF-761-AN』です。 私は『 本来はAIチップ一枚の存在に人型が与えられ、明確な人格が設定されたのは開発者の好奇心と技術力の誇示だったと思います。 それでも、今の私は感謝したいエゴですけれど。 そのエゴのおかげで私は琴夜に逢えたから。 でも、それは失敗でした。 有機的な身体に高度な人格プログラム。私は人間らしくなりすぎてしまったのです。 コンピューターとの接続テストで私は『システム』ではなく、『人間』として応対してしまうのです。 研究員の『命令』に素直に従えない。 思考が『命令』の間にはいってしまう…。 『システム』としては致命的な欠陥でした。 何度テストを繰り返しても結果は同じです。……私は欠陥品、でした。 固体名を、貰うことなく廃棄処分となりました…。 私を直すより、新しい『システム』を作る方が、コストがかからないから…。 運動プログラムを落とされて廃棄所に捨てられて、私はずうっと、ずうっと……空を見上げていました。 何故か何時も、雨の降りそうな…暗く重たい空を。 私が向かったのは、機械のメディカルセンターです。 対象は車から電化製品、もちろん無機、有機アンドロイドまで全ての機械です。 でも、有機アンドロイドは一般向け…というより希少なものなので、センターの人の手伝いは受けず、全部自分でやらなければいけません。 まぁ、これは俗にいうメンテナンスです。 メンテナンスを行う数は少ないのですが、やらないわけにはゆきません。 所詮私は機械です。 人間に近くても…所詮機械。 ……あの人と同じには、なれません。 私のメンテナンスジャックは一見では見つけられないように出来ていますが、首のところにあるのです。 少し力を加えて引くとカヴァーが外れて計6つのメンテナンスジャックが顔を出します。 まるで耳にあけたボディピアスのホールのように6つ。 メンテナンス中、私の意識は「休眠モード」に入ります。 もし、メンテナンス中に火事が起きても、私は気付けないのです。 そして私はメンテナンス中何時も夢を、見ている気がします。 それは、何時も同じ過去の出会い。 冷たい雨が、何日も降り続いていました。 運動プログラムがないから、処分所を離れることも出来きない。 冷たく、孤独で無為にすぎる時間。 有機アンドロイドである私のエネルギーは食物と水、それと電気です。 大方食物をエネルギーとして摂取しなければ、生きてゆけない。 このまま私は、固体名ももらえず、固体として認められず、消えていくことを理解しました。 理解した、というよりは『認めた』のかもしれません。 捨てられて、しばらくはまだ誰かが助けてくれると……思っていたんです。 そう、認めたとき私は捨てられて初めて、目を閉じました。 人は死ぬ前に『走馬灯』を見ると聞いたことがあります。 けれど、私には観ることは出来ませんでした。当たり前です。私は死ぬのではなく『停止』 するのだから。 私は、人間ではありません。 目を閉じて、どれくらい時間が過ぎたでしょうか。もう、本当にエネルギーがなくなる瞬間、声を聴きました。 まだ幼さの残る声が。 「生きているのか?」 私にそう、聞いているようでした。 「死んではいません。これから停止するのです。……私は機械ですから」 私は、そう答えたような気がします。 それから後のことは覚えていません。 私は停止したのだと、思いました。 最後に、たとえ間違えたとしても『人間』として『生きているのか?』と声をかけられて、 嬉しかった。 メンテナンスが終わるともう夕暮れでした。 高度な人格プログラムと身体の整備にはとても時間がかかるんです。 空には真紅のカーテンと夜色のカーテンが混ざった、『黄昏』の空の色。 風が夜の匂いを運んでくる。私の好きな時間の一つ。 でも一番好きなのは、『彼』と居る時間。 私は本当に彼が、大好きなのです。 目が覚めると、暖かい毛布がかけてあって、落とされていたはずの運動プログラムが戻っていました。 そしてあの時声をかけてくれた、と思われる『彼』がマグカップを差し出してくれていました。 私がそれを受け取ると私の名前をきいてきました。 彼は『御影琴夜』と名乗りました。 私は少し考えてから「『MF-761-AN』」と答えました。 そういうと、彼…琴夜は 「それは名前。じゃなくて製作番号じゃないのか?」 と聞いてきました。 「それはそうですけど…私には名前と呼べるものは、これしかないんです」 そう答えると、琴夜はしばらく考えてから 「フェアリィ」 と言い、無表情の中に少し照れた感情を抱ええてこう続けました。 「今日からフェアリィと呼ぶから、フェアリィはフェアリィだ」 そういって私の前から逃げるように去って行きました。 私は、彼に名前を貰いました。 とても…嬉しかった。 とても……とても…。 それから私は彼とずっと一緒にいます。 彼の全てを私は知りません。それは彼も同じです。 それでも私はいいのです。 だって今、私がドアを開けたとき、私が「ただいま」と言ったら本に目を落としたままだったけれど「おかえり」といってくれたから。 私はとても幸せ。 貴方が、死んでしまうとき、私も一緒に全てを終わらせて良いですか? 決して人間になれないけれど…私は………―――。 END Destruction Wers Said Story HAPPY LIFE〜君といきてゆく〜
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