この島は、本の管理に最適だ。

わたくしは、この世界に『本』が生まれたその瞬間から存在している。





Destruction Wars   AnotherStory

〜図書回廊の住人〜





 

 

「いい加減にして下さい!ここは遊園地じゃないのですよっ!!」
 この図書回廊の管理人――祀渚は、ピンクのはたきを振り回して声を発した。
 その声は、『図書館』の規律に違反することなく小さな声だが、注意を受けたもの脳内には大きな怒鳴り声となっているはずだ。
 注意を受けたのは考古学者であった。この図書回廊の蔵書量に感激して、大声で叫びまわっていたのだ。
「退館して頂いてもらいますですよ!」
 と怪しい言葉遣いを駆使して、ピンクのはたきで客を払った。
その客は、はたかれた瞬間その場から姿を消した。



 そんな光景を私は目の端で捕らえていた。
 あくまで目は本に落としたままで。



 私が、この図書回廊で本を読み始めて大体どれくらいたったのだろう。
 図書回廊の名は伊達ではなく館内が本棚で埋め尽くされていて、心地よいインクの臭いが満ちる空間。
 蔵書ジャンルはオールジャンル。文学書、論文、専門書、小冊子。どこかの会社の経理簿。
 漫画にライトノベル。週刊誌、月刊誌…エトセトラエトセトラ……。
 利用者はまばら。

 照明は暗くも無く、明るすぎず。

 閲覧室も一つ一つが丁度良い広さで区切られていて、居心地が良い。



 何冊目かの本を読み終えて、私は本を閉じ伸びをした。
 一気に一冊読み終えたあとの心地よい倦怠感をかみ締めてから、新しい本を物色しに出た。
読み終えた本は閲覧室の端にある『返却ボックス』に入れておく。
 管理人、祀渚が元の場所に戻してくれるのだ。


 ここには廃盤になった本や、発禁、発行部数の少ない本が初版で、しかもほぼ新品の状態で保管されているのだ。
 まるで、新しいおもちゃを与えられた子供のように、胸が弾む。
 回廊をゆっくり歩きながら、本を物色する。
 どれも珍しくて、どれも読んでみたいものばかりだ。
 館内をゆっくり見渡して、本を選ぶ。

至福の時間だ。

 ここにいると、時間の流れが遅くなるようで空腹感も疲労感も感じることはない。
 何にも、邪魔はされないのだ。

楽しく、なる。



 私が右手に数冊の本を抱えて、片手で身長よりも高い場所にある本を取ろうとしていたときだった。
管理人、黒幺祀渚が声をかけてきたのだ。

「きみは〜…。結構前からここにいますね?…いいんですか?」
 普通に声をかけられるなんて思ってもいなかったから、私は驚いてしまった。
 でも、しっかりと取ろうとしていた本は右手の中に本に追加する。
 それを、祀渚はしっかりみていたようで、口元をにんまりと歪めて、笑った。

「随分。本が好きみたいですね」
 と、聞いてきた。

「…えぇ。まぁ。好きじゃなきゃ長くここにいられないでしょう?」
 私は笑う。




「で?いいんですか?……きみ、もう…………」

 そこまで言いかけて、祀渚は言葉を切った。

「…いや。いいです。………君は、ずっとここにいたいですか?」



 私は。即答した。
 ここより外には興味はない。

 外は、とても暗く、恐ろしい。

 人が死に、殺されて。

 欲を満たすために、必要以上の殺戮を繰り返し、全てを奪う。
 私は、そんな世界が嫌いだ。だから……現実から逃げる。



 祀渚は、この図書回廊に新しく『更新』された書籍に目を通しながら、独白する。



「もう、あの悲惨な争いから20年以上たっているのにねぇ」
 ふ。と笑う。
本のページから目を離し、天井を見上げる。



「人の逃走本能とは…すさまじい…」




いくらここの時間が他より遅く流れていようと、自分が20年以上もここにいる事に気付かないなんて。

その、盲目さが丁度良い。



 又本に目を落として、ページを繰る。
 彼女の目はもう、活字の羅列しか認識しないだろう。
 それでも彼女は喜んだ。


ならば。


ずっとここで…………自分といるだけの話だ。







「永遠の孤独とは、決別だ」










その盲目さは、人の本質さえも………。






 END


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